読書のすすめ 13
画集 日影 の話
私が絵を画き始めた小学生の頃、雑誌に載せられる人物の絵姿に魅せられて 毎日の様に其の姿を画きうつしていたことを思い出す。
吾が家が破産してから辿った人生図は、それこそ一篇の物語りになるほどの変転で、折からの戦争の物語りになるほどの変転で、折からの戦争・戦乱の満州から抑留生活三ヶ年を経て戻ったのだが、戻った私を待っていた人生は豊かな豊かな人情の波であった。
その波の中で神を求め、毎年七日間を鹿島神宮道場で断食と無言と神池に於ける禊をさせていただくことが出来た。
七日の神修が終る度、私は筆を握って大きな紙一面に文字を書くことを覚えた。
目をつむって紙へ向うと心の目に映る文字があるので、その文字の通りに筆を走らせた。
そのうち、紙と筆の間に虚空が働く事を知った。筆力と紙力が互いに相手を押してはならないのは武術に於ける空氣投げに通うと知って、紙を人に持たせ、その上を筆が墨が走りはじめた。
漸く文字が生きものになって 龍 の文字から本当に龍体が脱け出す様になったところで、私は横山大観画伯の絵に触れ、文字が絵になり出した。
そして本当の絵画きでは無い私の画集が生まれた。
それが「日影」と名付ける一冊の画集になって皆様の手もとへ届くことになった。
絵だと思わないでください、筆と紙の間を走る 氣色 を御採りいただけたら幸いです。
二〇〇八・八・二
画集 日影 特別装丁●105ページ●価格21,000円
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